人の目はいつも価格に騙される
人の心理は操りやすいもののようです。
心理学者より先に、商魂たくましい商売人たちは、この心理に気が付いていたともいいます。
財布と若い男性
財布やバッグ、カバンを売るお店にふらりと入った若い男性。
（１～２万円くらいで、いい財布でもないかな）
と、そろそろ財布の買い替えを考えていました。ある財布が男性のに目が留まり、それを持ち上げ（なかなかよさそうだ）と思いながら商品を眺めています。
当然、価格が気になり、値札を確認すると「１０万円」の文字が。「とても手が出せないな・・・」と棚に戻そうとしたとき、店員が話しかけてきます。
「お客様、そちらの商品なのですが、ただいまセール品の対象になっておりまして、今でしたら４万円までお値下げできますよ。」（１０万円が４万円になるって、６万円も引いてくれるのか。それはとてもいい買い物だ。）
若い男性は結局その財布を購入し、予算オーバーにもかかわらず、（こんなにいい商品に巡り合えるとは幸運だった）と満足しながらその店をあとにしました。
１０万円の商品が４万円になっている場合と、元から４万円の商品、どちらに魅力を感じますか？
おそらく元々１０万円の商品だと思います。
１０万円が４万円になっていれば、６０％ＯＦＦですからとても魅力を感じます。元から４万円の商品よりは品質がいいものであると感じます。なんせ１０万円で売られている商品ですから。
店側もこの心理は大いに理解しています。お客様は高い商品が安くなっているものがお好きだと。
最初から４万円で販売するよりも、１０万円の値札をつけて、４万円に値引きする商法のほうが売り上げは上がると考えています。さらに、１０万円でも構わず買ってくれるお客がいれば、想定より６万円儲かるわけですからお店にとって損はありません。
ではなぜ、１０万円の商品が４万円になるとこれほどまでに魅力を感じるのでしょうか。
アンカー効果
最初に１０万円と知ると、その価格がその財布の価値の基準となります。
価格は店側が決めるもので、どの商品にどの価格が付こうとも店側の勝手なのは理解しつつも、良い商品は高いものだという全体の傾向は誰もが理解し、意識していることです。
店員によって４万円と知らされると、元々の基準である１０万円から一気に手を伸ばせば手に入りそうな価格に近づいてきました。最初の１０万円という価格設定により、財布が１０万円の価値を持っているものだと判断しているため、とてもお得に感じます。もしこれが最初から４万円ならお得感は感じず、むしろ予算オーバーですからとても高い財布と感じるはずです。
人は常に最初に与えられた価格を基準に考えてしまいます。このように、第一印象として与えられた数字を意識してしまうことをアンカー効果いいます。
私たちは何かを予想したり、判断する時、その基準としての数字をほしがります。保険を選ぶときはいくつかの会社の価格を見てそれを判断基準としますし、修学旅行に持っていくお金が完全に自由と言われたら、友達にいくら持っていくかを聞きたくなるでしょう。自分が持っていくお金をいくらにするか決める判断基準がほしいからです。そして、その友達がかなり高額を持っていくと知っとしましょう。すると、高いなと感じてそれよりは低額にするものの、周りからは浮いた金額を手にして修学旅行に臨む確率は高くなるのです。
学生とトラックボールの実験
アンカー効果の面白い点が実験で確かめられています。
学生に変わったオークションへの参加をさせる実験で、トラックボール（マウスの代わりとして使えるもので、特にゲームなどはこちらのほうがやりやすいそうです）の値段を競います。
まず、学生にトラックボールという商品の魅力を伝えた後、配られていた紙に仮の値段を書かせます。仮の値段は学生の社会保険番号の下２桁で、当然ランダムな２ケタの数字となります。
そのあと、トラックボールの競りを始めました。すると、社会保険番号の下２桁が大きい学生（８０～９９）は平均で２６ドルの値を付け、社会保険番号の下２桁が小さい学生（００～１９）は平均して９ドルの値を付けました。
社会保険番号の下２桁は値段とは明らかに関係がないはずなのに、学生たちは社会保険番号の下２桁に惑わされトラックボールの値段を決めたのです。
トラックボールの値段という、なかなか幅の広い値段から１つに決めなくてはならなくなったとき、学生は無意識のうちに最初に書いた２桁の数に影響されたのです。
他の実験からも、まったく関係のない数字にも人は惑わされることがわかっています。
私たちはアンカー効果に日々頼って物事を判断しています。これは決して逃れられませんし、便利な思考でもあるでしょう。この思考の正体を知っていることで高額な買い物をするときに、自分は今アンカー効果につられているかもしれないと注意することくらいはできるはずです。